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大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)370号 決定

抗告人 栄川木材工業株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の理由は別紙抗告申立書のとおりであつて、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

原決定は民事訴訟法第三百十二条第一号第二号による申立に基き、抗告人に昭和二十三年九月一日より同二十五年までの株主名簿の提出を命じたものであることは、記録に照して明白である。

すると、仮りに同条第一号の解釈が抗告人主張のとおりであるとするも、同条第二号によると、挙証者がその文書の所持者に対して、その引渡又は閲覧を求めることのできるときは、文書の所持者はその提出を拒むことができないのであるから、本件において、右の要件が具備しているかどうかを審究する。

本件において、前示文書提出命令の申立人らはいずれも抗告会社の株主であると主張し抗告会社はこれを否認していることは記録に照して明かであるから、右申立人らが果して抗告会社の株主であるか否かは、いまだ判明していないわけであるけれども、民事訴訟法第三百十二条は証拠を挙げんとする者に、証拠資料を得る方法を与える趣旨の規定である点から考えると、株主であると主張する者を一応株主として取扱つた上前示要件の存否を調査すべきものである。

そうすると、右申立人らは抗告会社の株主として株主名簿の閲覧を求めることができるのであるから、(商法第二百六十三条第二項)抗告会社が株主名簿を所持する限り、その提出を拒むことができないわけである。

抗告人は、提出を命ぜられた年度の株主名簿を所持しないと主張し、抗告会社代表者提出の陳述書、及び同人の審尋の結果によると右主張に副うころがあるが、株式会社においては、株主名簿を作成することを要するはもちろん、すでに本件においては、昭和二十五年以後の株主名簿を提出命令に応じて、原審に提出したことは、抗告人自ら認めるところであるから、これらの点にかんがみる時は、仮りに抗告会社がその主張するような、いわゆる個人会社であるとしても、昭和二十三年九月一日より同二十五年までの株主名簿だけは所持しないとする前示陳述書の記載及び審尋の結果は、到底真実なりと信用することはできない。

してみると抗告人は右株主名簿の所持者として、その提出を拒むことはできないのであるから原決定は正当である。

よつて民事訴訟法第九十五条、第八十九条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 大野美稲 岩口守夫 藤原啓一郎)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

本訴原告等の申立を却下する。

との御裁判を求める。

抗告の理由

一、本訴原告等は民事訴訟法第三百十二条第一号第二号により文書の提出命令を求めた。

ところで同条第一号の当事者が訴訟に引用したる文書とは文書そのものを証拠として引用することを言い、その文書の内容を引用しただけでは足りないから、右第一号を理由として、提出を求めることはできない。

従つて、同条第一号に基いて、申立をなし、該申立に対し、原裁判所が原決定をしたのは違法である。

二、而して同条第一号は文書を自ら所持するとき、第二号は文書の所持者に対し、其引渡又は閲覧を求めることをうるときに文書の所持者は其の提出を拒むことができずかかる者に対してのみ文書提出を命じうるものである。

文書の所持者でない者は、提出することは勿論物理的にも、法的にも提出ができないものであつて、かかる者は提出義務がないし、かかる者になされたる文書提出を命ずる決定は違法である。

文書の所持者とは、現実に所持する者のみならず事実上之を自己の支配に移すことのできる地位にある者をも含めるという判例があるとしても、抗告人は提出命令に係る文書を、全然所持していないし、而して又該文書がはじめより存在せぬ以上自己の支配に移す可能性もないから抗告人に対する原決定は違法である。

三、上場株式発行会社等では勿論法定の諸帳簿は完備しているが、それ等の会社は我が国の株式会社数に比すると僅少である。大多数の会社は、税法上税軽減をはかり会社組織の型態をとつているだけで個人経営と異ならない。

これらの会社にあつては、商業登記等の必要に迫られその都度、法定の手続をなし、書類を作成しているが、株主名簿その他の書類は備えていないのが通常である。

特に株主名簿或は株式台帳等は登記に必要でない書類であるだけに、作成せられていないことが多いのである。

抗告人もこの例に洩れず原決定に係る株主名簿は、はじめより作成せられず従つて過去現在を通じ、全然存在しないのである。原決定前の第一の提出命令に対しては、既に提出した。原決定あるも存在もしないし、勿論所持もしない文書は到底提出不能であり、不能を強いる原決定は違法である。

四、以上の次第であるので、原決定を取消し更に然るべき御決定を求める。

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